鵜ノ子岬→尻屋崎[044]

第4回目(1)2012年3月10日 – 21日

国道6号は復興していた

「東日本大震災」1年後の東北太平洋岸を走ろうと、2012年3月10日10時、東京・落合の山手通りに面した「スズキワールド新宿」を出発。バイクはスズキのニューモデル、V−ストローム650ABS。ABSのブレーキシステムを装着している。

 山手通りから首都高に入り、三郷料金所から常磐道を一路、北へ。

 V−ストローム650の高速性能は抜群。アクセルを軽くひねるだけでキュィーーーンという心地よいエンジン音とともに一気に加速する。V−ストローム650はロングツーリングにはピッタリのバイクだ。

 ポジションのとり方が楽なので自然体で乗れるし、20リッターという大型のタンク容量なので500キロ近く走れるし、2灯式のライトは明るいし、リアにかけてほとんど段差がないので荷物も楽々積める。ということで今回は宿がとれないときのために、キャンピング用具一式の入ったツーリングバッグをくくりつけている。

 ところでその3ヵ月前、2012年の正月はニュージーランドで迎えた。

 ニュージーランド南島の中心地、クライストチャーチを拠点にレンタルバイクで2200キロ走ったのだが、これが縁というもので、バイクはV−ストローム650だった。

 ニュージーランド南島ツーリングの出発点となったクライストチャーチは、「東日本大震災」の1ヵ月前、2011年2月22日にM6・1の直下型地震に見舞われ、町の中心街は壊滅的な被害を受けた。

 ニュージーランド南島ツーリングでは大地震の10ヵ月後に行ったのだが、中心街の広範なエリアは非常線が張られたままで、立入禁止になっていた。そんな町の姿を目の底に焼きつけて日本に帰ってきたのだった。

 常磐道で一気に東北に入るのではなく、いわき勿来ICのひとつ手前、関東側最後の北茨城ICで高速を降り、まずは大津漁港に行った。そこはまるで大地震直後のような惨状。岸壁には大きな亀裂が何本も入っている。漁港の施設も壊滅状態。大津波というよりも大地震にやられたようだ。以前は無数の漁船で埋め尽くされ、活気にあふれていた大津漁港は閑散としていた。

 大津漁港からは海岸線を走り、五浦岬に立った。岡倉天心ゆかりの六角堂は10メートルを超える大津波で流されたが、復興プロジェクトが急ピッチで進み、まもなく完成するという。

 五浦温泉の「五浦観光ホテル」は営業していたが、日帰り湯「天心乃湯」は閉館したままだ。再建できるのかどうか。ここの湯には何度も入ったことがあり、食堂で「あんこう鍋」を食べたこともあるので、営業再開を願うばかりだ。

 関東と東北を分ける鵜ノ子岬にやってきた。

 岬をはさんで南の関東側は平潟漁港、北の東北側は勿来漁港になる。

 関東側の平潟漁港はアンコウ漁でよく知られている。ここもかなりの被害を受けたが、大津漁港よりはるかに復興が進んでいるように見受けられた。岬の突端まで行くと、断崖の岩壁が激しく崩れ落ちていた。それはM9・0という超巨大地震のすごさをうかがわせるものだった。

 関東側の平潟漁港からいったん国道6号に出、茨城・福島の県境を越え、東北に入る。すぐに国道6号を右折し、鵜ノ子岬北側の勿来漁港へ。勿来漁港は茨城県側の大津漁港や平潟漁港ほどにはやられていない。それでも大津波に流されて破壊された漁船が何隻か見られた。

 漁港の岸壁にV−ストローム650を停めると、ヤマハのセローに乗った渡辺哲さんがやってきた。渡辺さんのセローはすでに13万3000キロ。渡辺さんもセローもツワモノだ。

 渡辺さんの実家は楢葉町。爆発事故を起こした東京電力福島第1原子力発電所の20キロ圏内ということで、いまだ自宅には戻れない。すでに大津波から1年もたっているというのに…。そんな大変な思いをしているのだが、ライダー特有の明るさとでもいおうか、渡辺さんと話しているとかえって元気をもらってしまうほどなのだ。

 渡辺さんは今日一日、同行してくれるという。

 さー、鵜ノ子岬を出発だ。

「下北半島突端の尻屋崎を目指して行くぞー!」

 東北・太平洋岸最南端の岬、鵜ノ子岬を出発。カソリのV−ストローム650が先頭を走り、渡辺さんのセローがそれをフォローする。

 カソリ&渡辺の「浜通り」の旅がはじまった。

 国道6号経由で小名浜へ。

 2011年3月11日の東日本大震災の2ヵ月後に来た時は段差が連続した国道6号だが、今ではすっかり路面がよくなり、走りやすくなっている。

 国道6号から小名浜に向かう道も大半が新たに舗装され、段差や亀裂、陥没箇所がなくなっている。震災から1年、道路だけ見れば完全に復興している。信号もすべて点灯している。震災後しばらくは、信号の消えた交差点で各地からやってきた都道府県警の警察官が交通整理をしていた。そんな光景が今ではなつかしく思い出される。

 いわき市最大の漁港、小名浜には活気が少し戻っていた。

 東北最大の水族館「アクアマリン」は奇跡の復活をとげ、人気スポット「いわき・ら・ら・ミュウ」も再開し、そこそこの人を集めて海産物を売っている。小名浜漁港の「市場食堂」も店舗を新しくして営業を開始している。わくわく気分で「市場食堂」で昼食。メニューは限られたものだったが、「マグロの漬け丼」(1350円)を食べた。

 ここまではよかったのだが、漁港で漁師さんの話を聞いたとたんに気持ちは暗くなる。

 魚市場は再開しているのに、水揚げされる魚はほとんどない状態がつづいているという。「小名浜」というだけで、まったく買い手がつかないというのだ。金華山沖で獲ったカツオを小名浜漁港で水揚げすると、

「キロ100円だよ」
 といって漁師さんは嘆いた。

 あまりの風評被害の大きさに、いいようのない怒りがこみあげてくるほどだった。