鵜ノ子岬→尻屋崎[046]

第4回目(3)2012年3月10日 – 21日

ちょうど1年

 いわき市の四倉舞子温泉「よこ川荘」で迎えた3・11の朝。「東日本大震災」からちょうど1年がたった。

 渡辺哲さんと一緒に「よこ川荘」の周辺を歩く。隣の温泉旅館「なぎさ亭」は大津波に襲われ、3階建の1階部分が全滅、瓦礫はほとんど撤去されていた。

 新舞子浜の海岸線を走る県道382号を渡り、海岸に出る。天気は曇。冬を思わせるような冷たい風が吹き、太平洋の水平線上には厚い雲が垂れ込めていた。

「この海が1年前、牙をむいて襲いかかってきたのか…」

「よこ川荘」に戻ると納豆と目玉焼き、塩ジャケの朝食を食べ、8時、出発。前日と同じようにカソリのV−ストローム650が先を走り、渡辺さんのセローがそれにつづいた。

 国道6号から県道41号に入り、県道35号との交差点まで行ったところでバイクを止め、ここで渡辺さんと別れた。自販機のカンコーヒーで別れの乾杯。それは同時に大津波で亡くなった大勢の方々への献杯でもあった。

 渡辺さんは県道35号を北へ。

 カソリはそのまま県道41号を走り、国道399号に出た。

 この国道399号は、爆発事故を起こした東京電力福島第1原子力発電所の20キロ圏で通行止になっている国道6号の、最短迂回路になっている。

 小川から北上し、一気に山中に入っていく。国道399号を北上すると、周囲はあっというまに雪景色に変った。前日は東北の広い範囲で大雪が降ったのだ。峠道にさしかかると、路面はツルンツルンのアイスバーン…。とてもではないが、V−ストローム650で走れるような状態ではなかった。

 国道399号は通行止にこそなっていなかったが、地元の人に聞くと、チェーンを装着した四駆でも走行できるかどうかのような路面状況だという。

 国道399号はこの先、いくつもの峠を越えていわき市から川内村、田村市、葛尾村、浪江町と通って飯舘村に通じている。狭路の区間は舗装林道のような道。交通量も極めて少ない。そんな国道399号を走り、飯舘村からは八木沢峠を越える県道12号で南相馬市の原町に出るつもりでいた。

 その国道399号が通れない。

「さー、困った…」

「鵜ノ子岬→尻屋崎」の東北太平洋岸ツーリングは出だしから大きなピンチを迎えた。

「国道6号が走れれば、何ということもないのに…」

 改めて爆発事故を起こした東京電力福島第1原子力発電所に、胸にこみあげてくる怒りを感じた。この爆発事故によって福島県太平洋岸の浜通りは完全に分断されてしまった。「東日本大震災」から1年たったというのに、このように浜通りの南から北へ、北から南へ行くのは大変なことなのである。

 いつまでも怒っていても仕方ないので、とりあえずは来た道を引き返し、いわき市の四倉まで戻った。四倉の海岸にV−ストローム650を止めると、しばし太平洋を眺めた。

 気分が落ち着くと、『ツーリングマップル東北』を見ながらのプランニング。その結果、「男は度胸だ!」と、高速道路に賭けることにした。というのは前日の大雪で磐越道の小野ICから先はチェーン規制がかかっていたからだ。

「北に行くのには、もうそれしかない」と心に決めた。

 あとは「なるようになれ!」

「いままでも、いつも、そうしてきたではないか」

 いわき四倉ICで常磐道に入った。いわき中央ICまでは片側1車線の対面通行区間。この間に雪はまったくなかった。

 いわき中央ICを過ぎたいわきJCTから磐越道に入った。ここから東北道の郡山JCTまでは全線が片側2車線。東北道に出られるかどうかが、大きな問題だ。

 磐越道を走りはじめる。最初のうちはまったく雪がなかった。高速性能抜群のV−ストローム650なので、その走りの良さを楽しんだ。

 いわき三和ICを過ぎたあたりから雪景色に変わってくる。幸い天気は回復し、日が差してくる。路面に雪はない。大量の凍結防止剤がまかれているのでアイスバーンの区間もなかった。それでも速度を落とし、突然、現れるかもしてないアイスバーンに最大限の注意を払った。

 いよいよ小野ICに近づいてくる。V−ストローム650のハンドルを握りながら胸がドキドキしてくる。この先でチェーン規制がかかっていたら、高速を降り、下道の国道349号で行くしかないのだが、阿武隈山地の雪の峠を越えられるとは思えなかった。

「ラッキー!」

 磐越道の小野ICから先のチェーン規制は解除されていた。さらに郡山JCTまでの間も路面に雪はなく、アイスバーンもなかった。

 郡山JCTで東北道に入り、福島西ICへ。この間は問題なく走れた。

 福島西ICで東北道を降りると福島市内へ。

 福島からは国道115号で浜通りの相馬に向かう。福島の市街地を過ぎたところで最初の峠を越えるが、無事、通過。峠の周辺は雪景色だが、路面に雪はなかった。

 最大の難関は霊山(825m)越えだ。

 ここでは幸いなことに気温が上がり、かなり強い日差しになったので路面の雪はシャーベット状になっていた。そのおかげでタイヤのグリップがあり、転倒することもなく走れた。霊山直下のゆるやかな登りを慎重に走りつづけ、ついに伊達市と相馬市の市境の峠に到達。峠の周辺はかなりの積雪の雪景色だったが、路面に雪はなかった。アイスバーンもなかった。

 阿武隈山地の名無しの峠を下っていくと、周囲の雪はスーッと消えていく。山地から平地に下り、まもなく開通する常磐道の相馬IC(南相馬IC〜相馬IC間は4月8日に開通)の近くを通り、相馬市の中心、中村の市街地に入っていく。そしてJR常磐線の相馬駅前でV−ストローム650を止めた。大きな難関を突破したのだ。

「勝ったな!」

 カソリ、賭けに勝ち、浜通りの南側から北側にやってきた。