30年目の「六大陸周遊記」[079]

[1973年 – 1974年]

ヨーロッパ編 2 アルヘシラス[スペイン] → バルセロナ[スペイン]

バレンシア発の急行列車

 地中海の「コスタ・デル・ソール」(太陽の浜辺)からシエラネバダ山脈の山中を通り、スペインの地中海岸ではバルセロナに次ぐ第2の都市、バレンシアにやってきた。

 このときのぼくはというば、もう疲れきっていた。

 体の疲れもあるが、それ以上に、ヒッチハイクすることに疲れていた。あまりにも難しいスペインのヒッチハイクに、我慢できないくらいのいやけを感じていた。

 そこでバレンシアからバルセロナまでは鉄道で行くことにした。

 やりきれないほどの「敗北感」に打ちのめされてしまう。

 バレンシア駅に着いたのは夜の10時。駅の時刻表を見ると、23時45分発の急行バルセロナ行があった。さっそく2等の切符を買って急行列車に乗り込んだ。

 電気機関車に引かれた、くすんだ緑色をした列車は、2等といえども立派なもの。車内はコンパートメントになっていて、1部屋が4人用。窓越しにバレンシア駅のホームを見、行きかう人たちを眺めた。ホームのベンチには粗末な身なりの夫婦が腰をかけている。別のベンチには4人の男の子と3人の女の子の大家族がいた。

 こうして急行列車は定刻通りにバレンシア駅のホームを離れていく。

 バレンシアの町明かりがあっというまに後ろへと流れ去っていく。

夜汽車の旅

 何とはなしに寂しさの漂う夜汽車の旅になった。

 窓に顔をこすりつけるようにして、町や村の明かりを見ているうちに眠くなり、座席にシュラフを敷き、足を伸ばして眠りについた。途中の駅で、小さな女の子を連れた夫婦が入ってきた。女の子はよっぽど眠かったのだろう、座席に座るとすぐに眠りはじめた。その女の子にシュラフをかけてあげると、両親は「グラシア(ありがとう)」といってニコッとほほえんだ。

 列車は真夜中の地中海に沿って走っている。浜辺に打ち寄せる波がときどき白く浮かび上がって見える。女の子を連れた夫婦が降りると、ぼくはふたたび座席にシュラフを敷いて足を伸ばして眠った。

朝のバルセロナ駅

 バレンシア発の急行列車がバルセロナ駅に着いたのは朝の8時前。バルセロナ駅はドームで覆われた大きな駅だ。ちょうど通勤の時間帯なので、おびただしい乗客を乗せた郊外電車が次々とホームに入ってくる。長距離列車用のホームにはフランスや西ドイツ、さらには遥か遠い北欧の国々へ行く列車が停まっていた。

 バルセロナ駅の構内で、
「さーて、どうしようか…」
 と何するでもなしにぼんやりしていると、東アフリカで出会った日本人旅行者の言葉が思い出された。

「バルセロナのユースホステルはよかったな。なにしろ食べ放題なんだ」

 心身ともに疲れきっていたぼくは、
「よーし、そのユースホステルに泊まろう」
 と思い立ち、駅構内のツーリスト・インフォメーションに行った。場所を教えてもらおうと思ったのだ。だが、時間が早すぎたようで、まだ開いていなかった。

 仕方なく近くの公園で朝食のパンをかじり、日記をつけ、それだけすると芝生に寝転んで時間をつぶした。

 こうしてツーリスト・インフォメーションの開くのを待った。