賀曽利隆の観文研時代[35]

常願寺川(3)

 さて、常願寺川である。

「常願寺川で何を見てきたらいいのでしょうか」
 と、出かける前に、宮本常一先生に聞いてみた。

 すると先生は最初は笑っておられたが、そのあとで表情を厳しくして言われた。

「とにかく行ってみることだよ。それによって気のついたことを見て、何かを感じてくればいい」

 要するに「あるくみるきく」なのだなと思った。しかし限られた日数で、はたしてどれだけのことができるのか。

「まあ、行けばなんとかなるさ」

 楽観的に考えて、常願寺川に行くことにした。

 行く前に基本的なことを頭にたたき込まなくてはと、昭文社の分県地図「富山県」を繰り返し見た。

 富山県は日本海に面した一帯が富山平野になっている。その富山平野を取り囲むようにして山々が連なっている。東は北アルプス(飛騨山脈)、南は飛騨山地、西は石川県との境を成す山並みだ。これらの山地から黒部川、常願寺川、神通川、庄川、小矢部川といった川が富山平野に流れ出ている。

 分県地図で富山県の全体を眺めたあと、今度は20万分の1の地勢図と5万分の1の地形図を見た。

 3000メートル級の山々が連なる北アルプスは、富山と長野・岐阜の3県にまたがる三俣蓮華岳で大きく2つの山脈に分かれている。

 主脈は針木岳、鹿島槍ヶ岳、白馬岳、朝日岳とつづく山並みで、新潟県の親不知で日本海に落ちている。

 三俣蓮華岳で分かれたもう一方の山脈は「立山連峰」と呼ばれ、北ノ俣岳、薬師岳、立山、剣岳と連なり富山平野に落ちている。

 やっかいなのは立山だ。地図を見ても「立山」という山名はない。立山は標高3015メートルになっているが、これは大汝山のことで、大汝山と雄山、富士の折立の三山の総称が立山なのだという。そのほか、立山信仰では浄土山、雄山、別山の三山をまわるので、この三山が立山だという説、立山信仰の中心を成す雄山が立山だという説がある。

 立山連峰の北ノ俣岳を源とする真川と、立山三山の直下から流れ出る称名川が合流して常願寺川になる。常願寺川は和田川、小口川の支流を合わせ、扇状地を造って富山平野を北流し、水橋で富山湾に流れ出る全長56キロの川だ。

立山三山の眺め。右から雄山(3003m)、大汝山(3015m)、富士の折立(2999m)
立山三山の眺め。右から雄山(3003m)、大汝山(3015m)、富士の折立(2999m)