賀曽利隆の観文研時代[13]

下北半島・佐井の「食」(1)

『宮本常一著作集』第24巻目の「食生活雑考」(未来社刊)

 日本観光文化研究所(観文研)の「下北半島・佐井」をフィールドにしての共同調査でカソリは、食文化をメインテーマにして見聞きした。

 宮本常一先生の著作集、全45巻の『宮本常一著作集』(未來社)の中でも、ぼくが何度となく繰り返し読んでいるのは第24巻目の『食生活雑考』。この本の第2章が「食生活雑考」になっている。

「ご飯のことをメシといいます。メシというのは召すものという意味です。もともとはイイといっていました。われわれが日常食べる主食のことです。ところでたべるというのは、賜るということばからきたものです。『何々してください』というところを、昔の貴族の女たちは『何々してたべ』といっていましたが、そのたべとおなじことばなのです。飯を食うことを、メシだのタベルだのと敬語をつかわねばならぬことは、飯を食う場合にはいろいろな作法があったからであり、日本人は毎日三度の食事のおり、飯ばかり食うていたものではなかったのです」

 このような書き出しの「飯のいろいろ」の項からはじまり、「おぜん」「食事の回数」「五徳と自在鉤」「モチとダンゴ」「魚を食べる」「みそ、しょうゆ」「酒もり」「酒の歴史」「お茶」「くだもの」「大みそかから元日へ」と、なんとも読みやすく、わかりやすく書かれた「食生活雑考」は全部で12項から成っている。

 この本は日本の食文化研究の絶好の入門書になっている。

 宮本常一先生の食文化に対する豊富な知識、視点の鋭さ、旺盛な好奇心が随所に見られ、食文化のさまざまなヒントを我々に与えてくれる。

 ということで1984年から1985年にかけておこなわれた日本観光文化研究所の「佐井」の共同調査では、カソリは宮本先生の『食生活雑考』をテキストにして「食」を見てまわり、「食」にまつわる話を聞いてまわったのだ。(つづく)